これからの「まちづくり」の考え方

市民が主役となる市民提案型まちづくりへ

かつて、まちづくりは都市計画の名の下に、行政主導で進められるものと考えられてきました。

しかし、本来まちづくりとは、そこに住む私たち一人ひとりの主体的行為であり、行政はみんなの代行者として機能するものであるはずです。長年受け継がれてきた歴史や風土に裏打ちされたまちの個性を下敷きにして、市民自らが「こうあってほしい」と想うまちの将来像を描き、それを都市計画の枠組の中に位置づけ、その実現に向けて市民、行政、民間企業みんなで取り組んでいく、つまり「市民提案型まちづくり」が、これから求められるまちづくりではないでしょうか。

近年、この市民提案型まちづくりに追い風が吹いています。都市計画法では、まちづくりに関する都市計画の提案制度が創設され、一定の要件を満たせば市民やNPOも地区計画等を提案することができます。平成16年に制定された「景観法」では、「良好な景観は、地域の自然、歴史、文化等と人々の生活、経済活動等との調和により形成されるもの」であり、「地域住民の意向を踏まえ、それぞれの地域の個性及び特色の伸長に資するよう、その多様な形成が図られなければならない」と規定され、地域の個性を活かしたまちづくりが法的に担保されています。具体的には、「景観計画」の提案制度が盛り込まれており、やる気のある地域とそれを支援する行政がスクラムを組んで取り組むことにより、地域固有のまちづくりが可能となっています。

また、各自治体でも、まちづくりに取り組む地域や団体への助成、それをアドバイスする専門家とのマッチングなどの制度を独自に設け、まちづくり活動を支える仕組みづくりが進んでいます。加えて、まちづくり支援を専門とするNPOが現れ、その活動領域も広がりをみせています。このように市民や地域が主役となる市民提案型まちづくりに取り組む環境が整いつつあり、これまで以上に、市民の想いを実現する可能性が広がっています。

市民提案型まちづくりの3つのステップ

では、市民提案型まちづくりは、どのように進めていけばよいのでしょか?

まず、「地域に対する想いや危機感が募り、それに共感する仲間が集まる」ことが、その第一歩になります。「緑豊かな環境を後世に残したい」「地域のシンボルである蔵の雰囲気を活かした街並みをつくりたい」「地域の商店街を活性化したい」「近所付き合いが希薄になってきた」「マンションが乱立し街並みが悪化してきた」など、その動機は様々あると思います。大切なことは自分一人だけの想いではなく地域の問題として、より多くの住民とその想い(あるいは危機感)を共有することです。当然のことながら、まちづくりは一人ではできません。一緒に活動する仲間を集め、行政や専門家等のサポートを得る必要があります。そのためにも、次のステップとして、「まちづくり計画をつくり、みんなで共有する」ことが重要となります。まちづくり計画は、その過程において、地域住民や行政、専門家等を巻き込みながら、まちづくりを進める機運を高めるツールであるとともに、それら様々な人や組織が、地域の情報と将来像を共有し常に確認するためのよりどころとなるものです。したがって、腰を据えてじっくりと段階を経ながらつくり、さらには、つくりながらその内容をみんなで共有していくことが求められます。

そして、その実現に向け住民と行政の協働により「実行していく」ことになります。すぐにできることから始める一方で、時間をかけて関係者の合意を得ながら取り組まなければならないものもあります。いずれにせよ、まちづくり計画に基づいて実施される事業や取り組みは、その成果を評価し、計画にフィードバックすることも忘れてはいけません。また、まちづくりには、長い時間がかかるものであり、その間の社会動向や地域を取り巻く環境の変化などで、計画内容の変更が余儀なくされたり、個人的な事情で計画の進捗に大きなダメージを加えるような出来事も発生する場合もあります。こうした問題に対処し、まちづくり計画の実行していくためには、変化に適切に対応できる柔軟性も備えておくことも必要です。

市民提案型まちづくりの基本的な流れ その1

まちづくり計画の基本構成と内容

市民提案型まちづくりのよりどころとなるまちづくり計画は、大きく3つのパートからなる一連の考程で構成されます。

1つは「地域の個性を読み解く」です。地域の歴史や現状を調べ、まちづくりの課題や活用したい魅力資源などを整理し、地域の将来のための処方箋を考えます。これらをふまえて「地域の将来像を描き、それを実現するための仕組みをつくる」ことになります。将来どんなまちを目指したいのか(大きな目標)を定め、それを達成するための大局的な方向性と具体的な事業や取り組み、まちづくりルールなどを立案します。合わせて、それを実行するための行動計画(体制、プログラム、資金計画など)を編成します。

また、「地域の個性を読み解く→地域の将来像を描く」という考程と連動して「地域の人たちの想いを引き出す」ことが不可欠です。そこで暮らす住民や労働者、買い物や観光などで訪れる人などそれぞれの立場のニーズを考慮することが大切です。特に、みんなの頭や心に眠っている潜在的なニーズを引き出し、まちづくり計画に反映させることがポイントになります。市民の多くは、まちづくりについて長期的・多角的に考えることに不慣れで、身近な問題に対する意見に終始することも少なくありません。潜在的なニーズを喚起するためには、ワークショップなどの意見交換の場を捉えて、まちづくりを考えるための種々の情報を、誰もが直感的に理解しやすいように工夫して提示する必要があります。

このように、まちづくり計画を市民だけでつくることは大変難しく、専門家のコーディネートのもとに進められることが一般的です。専門家による長期的・総合的な見識に基づいた調査や提案を受けながら、みんなが共有できる将来像を得るために、一歩一歩手続きを踏んで次第に方向性を絞り込んでいくことになります。この時、文言だけではなく、みんなが共通イメージを持てるよう、具体的な図やスケッチ、模型などを用いたプレゼンテーションが有効となり、みんなの潜在的なニーズを引き出すことと合わせて、専門家の大きな役割となります。また、まちづくりが具体化される前に大勢の人の合意が必要になりますが、その時の利害調整も専門家がプロデューサーやコーディネーターの役割を引き受ける場合もあります。

市民提案型まちづくりの基本的な流れ その2